任天堂がゲーム好きを採用し、JRが鉄ヲタを取らないわけ

昨日友人と寮の食堂で夕食を食べていたら、生きる事と仕事をする事ってのは一緒なんだろうかという、いかにも卒業を間近に控えた大学生らしい、くだらない話になりました。

友人は、仕事というのは生きるためのひとつのツールであって、仕事を生きる目的にはしたくないといった感じのことを言っていました。友人が言うには、仕事を生きるための軸にしてしまうと、その軸がぶれた時に精神的に参ってしまったりして、自分が自分でいられなくなる可能性があると考えているそうです。

僕は彼とは少し違う考え方で、仕事の為だけに生きるというのはもちろん嫌だけれども、どうせどんなに我が侭を言っても今後40年間のうち3分の1くらいは仕事をしなければいけないのだから、いっそのこと仕事が生きるための目標の1つである方が良いと考えていたりします。もちろん、仕事で参ってしまう事も必ず出てくると思うので、それ以外に家族だとか趣味だとかという他に頼れるものを持っておいた方が良いというのは間違いないと思いますが。


それで、家庭を持っても、趣味を持っていても結局そっちの方で問題を抱え込んじゃう可能性もあるんだから、結局人生の軸になるのは宗教しかないんじゃないの〜?ってなおかしな方向に話が向き始めたところで、別の友人がいいタイミングで登場して話題を変えてくれました。

しばらく、取り留めの無い話をした後、結局また仕事の話題に戻ってきたのですが、その時に趣味を仕事にしたらどうなるんだろうという話になりました。
僕ら3人は全員理系だったので、昔はゲームクリエイターになりたかったという考えで一致したのですが、結局誰もゲーム業界には進みませんでした。

その理由は、ゲーム業界は結構大変そうだとか、仕事と趣味は分けたいとか、それぞれ理由があったと思いますが、僕自身も昔ほどゲームに対して魅力を感じなくなっていたので、ゲーム業界は殆ど受けませんでした。

しかし、ただ1社だけ任天堂を受けました。
もちろんある程度は仕事が面白そうだという理由で受けましたが、給料が良いとか、今後伸びる可能性があるといった下心があったのも事実でした。


技術系といえども、流石に業績好調の企業とあって採用は狭き門だというのは分かってるつもりで、受かればラッキーと思いつつ受けたのですが、筆記試験に受かり、1次面接に受かった時点で結構真剣に考えざるをえなくなりました。

任天堂は選考時期が他の企業に比べて遅いため、2次面接を受けたときは、殆どの企業の選考は終わっており、僕も面接にも結構慣れ、喋る事も殆ど固まっていました。
正直言って今はDSもWiiも持っていないし、ゲームも殆どしないので、ゲームに対する愛着は他の人達よりも薄かったと思います。しかし、これまで面接を受けてきた感じだと、その企業の製品が好きかどうかとか、その会社自体が好きかというのは結構どうでもよくて、面接官はもっと別の事、例えばその人が将来どのようなキャリアプランを描いているのかだとか、これまでどのような取り組み方で研究を頑張ってきたかだとか、どういう仕事をやってみたいだとか、そういった質問が多く、自社製品について聞いてきたところはあまりありませんでした。

もちろん営業職希望の人達だったら、その企業に対する魅力などを語って、自分がなぜその企業に入りたいかを説明するというのがあたり前なんでしょうが、メーカーの技術職やSIばっかりを受けていた僕は、それよりも自分がやりたいことや、これまでやってきた事を語る場の方が圧倒的に多かったのです。


そんな感じで、任天堂の2次面接も受けました。
本社前で一生懸命自分の研究の話を練習して、自分のやりたい仕事について考えてきた事を反芻していざ面接に望みました。
すると、1次面接では殆ど技術の事ばかり聞かれたのに、2次面接では一転ゲームの話ばかり。

面:ゲームは好きですか?

僕:す・・すきです・・・

面:どのゲームが好きですか?

僕:その・・マリオカートとか好きです・・・

面:他にどんなゲームが好きですか?

面:PCではどんなゲームをしますか?

まるで僕がゲームにあまり興味が無い事を把握しているかのように、怒涛のゲーム関連の質問。
昔の知識やゲームの好きな友人の話等を参考に、ある程度はちゃんと答えられたのですが、僕自身から見てもゲームに興味がある人物とは映らなかった様に思えます。
結局そこであっさり不合格となり、任天堂への道は閉ざされてしまったのですが、その後もなぜあそこまで面接官がゲームの質問をしてきたのかいまいち理解できずにいました。

もちろん自社製品に愛着をもち、その会社が好きだと考えて仕事をすれば、仕事をしていてもハッピーになれる可能性は高いし、多少辛い仕事でも我慢できると思います。ただ、そういう自社を愛している人が必ずしもいい仕事をするかというと別で、製品自体は好きではなくても回路設計やプログラミングやデザインの知識が豊富な人間の方が会社にとって利益になる働きをする様に思えたからです。


また友人との話に戻ると、趣味を仕事にするという話の延長で、鉄ヲタはJRに入れないという話を聞いた事があると言い出しました。その話が本当かどうかは分かりませんが、もし本当だとしたら、任天堂とは全く逆なわけです。趣味を仕事にすることを受け入れる任天堂と、趣味を仕事にすることを拒むJR。
その違いは何かと考えた時に一つの結論にたどり着きました。

それはゲームというものは趣味として顧客に供給するものであるけれども、鉄道というものは趣味としての利用はメインではなく、メインは交通手段として顧客に提供するサービスであるという事です。
その供給するものが「趣味」であるか否かによって、従業員に求められる考え方も異なってきて、趣味を顧客に提供する場合は従業員もそれを趣味としている方が顧客のより求めるものが提供できるのに対し、一般的に趣味とはならないものを顧客に提供する場合は、従業員がその仕事を趣味の延長として捉えると、顧客が求めるサービスと従業員が提供するサービスとにズレが出てくると思うのです。
だから、僕がそれまで受けた「趣味」にならないものを作るメーカーやSIでは、自社製品が好きかどうかについてあまり大きく触れなかったのだと思います。

そんな事を友人達に話しながら、自分でも、だからあの時僕はゲームが好きでない事を見抜かれて、任天堂の面接で落とされたのだと勝手に納得していました。
まぁ、本当は他にも色々足りなかったところがあるんでしょうけどね。


結局、趣味の延長が仕事であるのが良いことなのかという疑問は、まだ働いた事のない僕らにはさっぱり分かりませんでしたが、顧客のニーズに答える為にはまず自分が顧客の気持ちを理解する事が大切であるという事は、任天堂の面接から半年以上経った今ようやく理解ができました。
そんな仕事の話をしながら、働く事を考える前に目先の修論を頑張ろうという意見で一致し、3人とも少し憂鬱になったのでした。